各地の事例

水田の水管理に関する各地の事例調査

 水田での稲作は、一見すると単純に水を張って栽培しているように見えます。しかし実際には、田植えから収穫までのプロセスの中で水深を変えたり排水したりして、水量を細かく管理しています。その具体的な内容は、地域の降水量や農業用水の供給、あるいは土壌中の水の浸透速度といった要因で変わってきます。そこで私たちは、地域による違いを調べるため、全国の主要な地域でのインタビューにより、水管理の具体的な方法について調査を行いました。

1.水管理の基本的な考え方
 稲を水中で育てる目的は第一には水分を供給することですが、その他にも寒さや暑さから稲を守る、雑草を防ぐ、分げつ(株分かれ)を促進するといった目的があります。しかし当然ながら水中では根が呼吸できないので、根ぐされを起こしやすくなり、また土が柔らかくなるため、倒れやすい、収穫作業がやりにくいというデメリットもあります。生育の面でも、分げつ(株分かれ)が過剰になってしまうという問題があります。このように、水を張るメリットと張らないメリットを両立(端的には水分供給と酸素供給を両立させること)させながら稲の健全な生育を図るというのが、水稲栽培の重要な考え方です。遠い過去から試行錯誤してきた結果、今日の稲作は、多くの地域で水を入れたり出したりという細かい管理をする形態になっています。水管理の技術も、水稲栽培の技術の中で大きな比重を占めているのです。
2.標準的な水管理の方法
 水の管理方法の典型的な例を下の図に示します。まず田植えの時期になると、やや深め(35mm程度)に水を入れて代かきをします。冬の間に土が乾燥するので、この時はためる水の3~5倍の水を入れる必要があるようです。田植えが済み、苗が根づく(活着)と、水を浅く(25mm程度)して分げつを促進します。その後に雑草防除を行いますが、かつては初期・中期・後期の3回行っていたのが、最近では初期と中期を一度で済ませる一発剤が主流になっているようです。この時はしばらく水を出し入れせず放置する必要があるため、深く水を入れます。
 ちなみに、水田の水は放置しても1日に10~30mm程度、浸透と蒸発により水位が下がります。浸透のしやすさは1軒1軒で違うといってもいいくらいなのですが、各地の話を総合すると、標準的には1日当たり15mm程度の水位の減少速度を考えているようです。この場合、60mmの深さに水を張ると4日でなくなることになります。除草剤は1週間程度効かせるのが理想ですが、途中で干上がってしまうと生育に悪影響があるため、実際には水が抜けたらすぐ入れて、次の浅水管理(浅水の状態で水位を維持すること)に移行しているようです。
 田植えから40日程度経った時期に、全て排水して田を乾かす中干しが行われます。中干しの目的は、酸素を供給する、過剰な分げつを防ぐ、倒伏しにくくする、収穫時の作業をしやすくする(土が締まって固くなるため)、などが挙げられます。ただし、乾きすぎて大きくひびが入ってしまうと、水が抜けやすくなってしまいその後の水位の維持が難しくなるので、小さくひびが入ったら地面を濡らす程度に水を入れる、といった方法でしばらく中干しを維持します。逆に、この時期は梅雨に当たることも多いため、雨が続いて全然地面が乾かないこともありますが、地面に溝を切るなどの方法で少しでも排水をしやすくします。中干しの期間は10日~2週間程度の地域が多いようです。
 中干しが終わると、出穂までは浅水管理または間断かんがいを行います。間断かんがいとは水を入れて放置し、水がなくなったらまた入れるという作業を繰り返す水管理方法を指します。この時期の稲は特に水を必要とするのですが、同時に根に十分な酸素を供給しなくてはならない時期でもあります。このかん水と排水のノウハウが稲作技術のかんどころであり、「かけ引き」の語源とも言われています。出穂前後の時期は特に水が必要となることから、湛水(水をためておくこと)するケースもあります。このような水管理を収穫まで続けます。

稲作の水管理の例